足の静脈瘤でお悩みの方へ
下肢静脈瘤はいわゆる病名ではなく、下肢の静脈うっ滞に伴う症状のひとつです。
正常の場合は静脈の血液はつま先から心臓へ返りますが(これを静脈還流といいます。)、静脈の弁が壊れて逆流してしまったり、下肢の筋肉の力が衰えてしまうために充分に心臓へ送り返せなかったりすると、 血液が下肢にとどまってしまいます。これが欝滞(慢性静脈不全)という状態です。
- 毛細血管拡張
- 静脈瘤
- むくみ・だるさ
- 皮膚の変化(湿疹・色素沈着など)
- 皮膚潰瘍
下肢の静脈は表面を走る表在静脈(大伏在静脈と小伏在静脈)と足の筋肉の中を走る深部静脈、そして表在静脈と深部静脈をつなぐ交通枝からなっています。表在静脈は根部で深部静脈と合流しています。足の静脈還流の90%は深部静脈が担っています。
静脈は動脈と違って弁構造を持っており血流は常に1方向へ流れる様になっています。
下肢静脈瘤の治療には、瘤だけでなくうっ滞の原因と部位を把握する必要があります。日本人に多いうっ滞のパターンは表在静脈(大伏在静脈・小伏在静脈)または交通枝の弁の異常による逆流がほとんどです。
ですから、治療は瘤だけを治すのではなく、うっ滞原因を減らすことが必要です。

静脈瘤の種類
1.大伏在静脈瘤・小伏在静脈瘤
外来にいらっしゃる患者の70%がこのタイプの静脈瘤です。
大体内側から下腿前面に向かって走る大伏在静脈の静脈瘤と、膝裏から下腿後面に向かって走る小伏在静脈の静脈瘤があります。
2.側枝静脈瘤
大体裏や外側などに見られる細い静脈瘤です。
3.網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤
太さが1-3mmの網目状静脈瘤、1mm以下のクモの巣状静脈瘤は症状を伴うことは少なく、
美容上の問題のみであることが多いです。
静脈瘤の症状
静脈瘤があっても症状が全くない方もいます。しかし、症状の進行に伴い、足のむくみ・だるさ・重さ・痛みなどのほか、こむら返りがおきやすくなったりもします。さらに進むと、湿疹が出来てかゆくなったり(うっ滞性皮膚炎)、色素沈着や潰瘍を伴うこともあります。ただし、これらの症状があったとしても生命に関わるような重篤な合併症を起こすことはありません。
静脈瘤の診断
静脈瘤そのものは、問診・視診で診断できます。静脈瘤の原因により、治療法が異なってきますので、いくつかの検査を行います。検査そのものはすべて受診された当日に外来でできますので、その日のうちに治療方針を決めることができます。
古典的検査
静脈瘤の足を上げた状態で膝上を軽く縛ります。この状態では足にたまった血液はすべて心臓側に戻っています。
この状態で立っていただきます。もしこの状態で静脈瘤が出てくるようであれば膝より下の穿通枝が静脈瘤の原因となります。縛った状態を解除したところで静脈瘤が出てくるようであれば大伏在静脈が静脈瘤の原因となります。
ドップラー聴診検査
静脈瘤の原因となっている血液の逆流を聞くことでその原因を調べる方法です。深部静脈と大伏在静脈・小伏在静脈の合流部に機械を当てて、音を聞くだけの簡単な検査です。 これで、おおむね治療方針が決まります。
超音波検査
体表から機械を当てて超音波で静脈の逆流の部位、静脈の太さ、血栓の有無などを調べます。前述のドップラー検査よりさらに詳しく静脈瘤の状態がわかります。
容積脈波検査(APG)
足に機械を巻いて、立って頂いたりするだけの検査です。これにより、逆流・うっ滞の程度が数値でわかります。また、足の筋肉のポンプの力もわかりますので、より詳しい静脈瘤の原因がわかります。
静脈瘤造影
静脈瘤に直接造影剤を注入し、血管の走行を移す検査です。静脈瘤のタイプや広がり、異常な交通枝や深部静脈の異常まですべてわかるため以前は手術前に全員行っていました。現在は超音波検査でほとんどの情報がわかりますので、この検査を行うことは少なくなっています。
治療方法
1.保存的治療
下肢のうっ滞をなるべく減らす様な工夫をします。
- 長時間の立ちっぱなしを避ける
- 足首の運動をする
- 足を挙上する
- 弾性ストッキングを履く
弾性ストッキングは拡張した静脈瘤を圧迫して逆流・うっ滞を防ぎます。むくみやだるさだけが気になって美容を気にしない方にはこれだけでも有効です。
(ただし静脈瘤を根本的に治すものではありません。)
2.硬化療法
静脈瘤に硬化剤という血管を固める薬を注入した後強く圧迫して潰してしまう方法です。網目状・クモの巣状といった細かい静脈瘤の方が適応になります。
処置自体は外来で15分ほどでできますので入院は不要です。処置後3日間は弾性包帯による圧迫(この間は入浴はできません。夜間も圧迫のままです。)が必要で、さらに3週間日中は弾性ストッキングを履いていただきます。
硬結や水疱、色素沈着が見られますが時間とともに改善します。まれに皮膚潰瘍を合併することがあり、皮膚の弱い方は注意が必要です。
合併症:
瘤内血栓37%、色素沈着7.5%、注射部の浮腫3.8%、薬剤性皮膚炎3.1%、皮膚潰瘍1.6%
3.手術
いずれの手術も局所麻酔に静脈麻酔(眠る薬)を併用して行っています。年間200件以上の手術の実績がありますが、そのほとんどが日帰り手術で行っています。
大きい瘤の周囲の血管を縛って切断し、瘤を切除します。逆流の原因となっている血管を見つけて縛った方が効果的です。
深部静脈と表在静脈の接合部を縛って切断します。小伏在静脈(膝の裏側のタイプ)は枝が少ないのでこの方法でかなり逆流が消失します。
表在静脈を抜去します。この時表在静脈の細かい枝はできるだけ縛っておきます。大伏在静脈(太ももの内側から下腿前面のタイプ)は交通枝からの逆流が原因のことも多く、高位結紮のみでは逆流が消失しないことがあり、この方法が有効と考えられています。
当院ではももの付け根から膝下までのストリッピングを行っています。
現在は次にご紹介する 高周波血管内アブレーション治療(保険適用)を第1選択に治療を行っています。
表在静脈を抜去する代わりに、血管の内腔をラジオ波で焼きつぶしてしまう方法です。ストリッピングと同等の効果があり、かつ、傷が見えるところにない(足 の付け根に1カ所のみ。)痛みが少ないといった利点があります。保険適用の治療です。




下肢静脈瘤は命にかかわるものではありません。治療の必要性は患者さん自身で決めていただきます。
美容を気にしないで、むくみ・だるさなどの症状だけが気になる人は 保存的治療だけで十分かもしれません。美容と症状の良方が気になる人には積極的治療をお勧めしています。
手術までの流れと術後の経過
1.初診
問診・身体所見・ドップラー検査を行います。これだけでだいたいの治療方針が立ちます。手術適応と判断した場合で手術の希望がある場合には初診時に術前検査も行います。
2.再診
術前検査の結果を確認します。検査に問題がなければ、手術日を決定し、日帰り手術センターで面談していただきます。
3.手術当日
指定された時間に日帰り手術センターに来ていただきます。受付・着替え・点滴などをして手術を待ちます。手術は局所麻酔(鎮静剤を使用することもあります)下に行います。手術時間は瘤の状態次第ですが、30分から1時間程度です。創部は5mm~10mm、数か所(瘤の多さによる)です。朝の手術であれば昼頃には帰宅可能です。ほとんどの方が日帰りで帰宅されます。
4.術後の経過
トイレ・歩行・食事は術直後から可能です。日帰り手術センターで遅い昼食がでます。3日程度は痛みがありますが、経口の鎮痛剤で対処可能です。
車の運転・責任のある仕事は1週間程度はしないようにしておいた方が無難でしょう。
術後3日目からシャワーが可能です。手術の時に創にシールを貼りますが、そのままシャワーを浴びて頂いて構いません。
5.術後の外来
シールをはずして創をチェックします。弾性ストッキングは術後1週間目まで入浴・睡眠時以外は履いたままでいます。
症状・美容上の満足度を確認します。静脈瘤の遺残がないかをチェックし、あれば硬化療法・瘤切除の追加を検討します。