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胸壁外科(漏斗胸)

胸壁外科(漏斗胸) メニュー閉じる開く

はじめに

私たちは漏斗胸、鳩胸などの胸郭変形疾患を治療するために、金属などの異物を体内に留置することなく、1回の手術で完結し、合併症が少なく、痛みが続かず、運動制限が短期間で、10歳以下の小児にも無理なく施行可能な胸肋挙上術変法を開発、進化させています。私たちはNuss法での手術は行いません。
胸郭変形疾患には、陥凹や突出など胸の形が気になる、胸痛や呼吸困難など身体症状の原因が検査してもわからなかった、漏斗胸という病名を知らなかった、どの科を受診していいかわからない、など多くの問題があります。胸郭変形疾患についての理解を広めるために、2001年にインターネットを用いた解説と情報の公開を始め、統計学的、医学的に正しい方法で検証したデータや文献に基づいた新しい情報をお伝えするために更新に努めております。
胸壁の異常について専門的な診察と治療を行うために2013年に日本で初めて胸壁外科外来を開設いたしました。
お読みいただいた後にメールでご質問頂ければお答え致します。
2020年5月からはオンライン公開医学講座としてインターネットを用いて月に1回ライブでご説明をいたしております。日程等は病院ホームページの公開医学講座の欄をご覧ください。

湘南鎌倉総合病院 胸壁外科 飯田浩司
vol. 15 2021.8.18

よくある質問はこちら

新着情報

  • 2022年7月
    胸壁外科コラム更新しました
  • 2022年2月
    2022年夏休み中に手術をご希望される場合のお申込み方についてご説明いたします。 すでに受診されている方は、4月以降に学校などの予定がわかってからご希望の時期を問い合わせメールのアドレス宛に申し込んでください。 7-8月は学童生徒の方のご希望を優先いたします。大変申し訳ございませんが、未就学、または社会人の方は、6月以降にご希望をお伺いいたします。 受診していない方はご来院いただいて診察をしてご説明を聞いていただいてからご希望をお伺いいたします。代表電話から胸壁外科を呼び出して診察予約をとってからご来院ください。 ご連絡いただく際には、返信ボタンで返信可能なアドレスから、毎回お名字を件名にして、手術を受ける方の①姓名(ふりがな)、②生年月日、③診察券の番号、④手術を希望する病院を本文に記していただきますようお願いいたします。 また月に1回程度インターネットを使ったオンライン医学講座として漏斗胸鳩胸のご説明をいたしております。詳細は各病院のホームページでご覧ください。
  •       
    現在、大変多くの方に診察のご予約をいただいております。そのため診察日を増やして対応しておりますが、患者さんお一人お一人に十分なお時間を確保させていただいているため、約1カ月先まで予約をお取りいただけない状況です。 コロナウイルス感染症の増加やその他のご理由で予約後に来院できない場合は、ご都合が分かり次第、胸壁外科外来クラーク(0467-46-1717)までご連絡をお願い致します。 何卒、よろしくお願い申し上げます。
  •       
    2022年2月中旬下旬は出張が多く、問い合わせメールへの返信が遅れる可能性があります。受診予約の変更や急を要するご連絡は胸壁外科外来クラーク(0467-46-1717)までお電話でお願いいたします。遠方のため、あるいはコロナ禍のためにご来院が難しい方は、Web公開医学講座をご覧ください。月に1回、「漏斗胸と鳩胸の治療」についてご説明しております。次回の予定は2022年2月19日(土)、3月1日(火)です。申し込み方法などの詳細は当院ホームページ をご参照ください。
  •       
    胸壁外科コラム更新しました
  • 2021年11月
    第74回日本胸部外科学会定期学術集会のテクノアカデミー(上級演題)に「漏斗胸に対する胸肋挙上術変法」を発表しました。
  •       
    胸壁外科コラム更新しました
  • 2021年10月
    第20回Nuss法漏斗胸手術手技研究会に演題「胸肋挙上術変法」を発表しました。私たちはNuss法での手術は行っていませんが、この会に参加しています。2022年秋には第21回の研究会を主宰し鎌倉市で開催する予定です。
  • 2021年9月
    胸壁外科コラム更新しました
  • 2021年8月
    ホームページ更新しました
  • 2021年7月
    医事新報インターネット版「漏斗胸の安全・低侵襲な治療法 Nuss法のup to date」の中でNuss法の問題点と他の手術法」を執筆しました

過去のニュース

  • 2020年12月
    【内容更新】オンライン公開医学講座
    オンライン会議ソフトZoomを使ったオンライン公開医学講座「漏斗胸と鳩胸」を2020年12月15日(火)17時から行います。参加ご希望の方は胸壁外科お問い合わせアドレスに前日17時までにお申込みください。IDとアドレスをお送りいたします。なお、Zoomのダウンロード(無料)、操作方法については当方ではお伝えできませんのでご了承ください。
  • 2020年9月
    【学会発表】第57回日本小児外科学会学術集会 小児に対する異物を留置しない漏斗胸手術
  • 2020年5月
    【内容更新】オンライン公開医学講座(葉山ハートセンター主催)
    オンライン会議ソフトZoomを使ったオンライン公開医学講座「漏斗胸と鳩胸の治療」を2020年6月3日(水)15時から行います。参加ご希望の方は胸壁外科お問い合わせアドレスに前日17時までにお申込みください。IDとアドレスをお送りいたします。なお、Zoomのダウンロード(無料)、操作方法については当方ではお伝えできませんのでご了承ください。
  • 2019年11月
    【学会発表】第19回Nuss法手術手技研究会 (4人で5題)
    飯田 患者にやさしい漏斗胸治療の指標になるのは? 胸肋挙上術変法と過去の術式との相違点
    深井 陥凹が強い小児例に対する胸肋挙上術
    西田 漏斗胸患者の特徴的な胸郭に対する胸肋挙上術の矯正力
    進藤 漏斗胸の手術をした子供の受診から日常生活に戻るまでの心情の変化
  • 2019年10月
    【学会発表】第72回日本胸部外科学会定期学術集会 異物を用いない漏斗胸手術25年間の経験
  • 2019年5月
    【学会発表】2019年5月16日に行われた第36回日本呼吸器外科学会学術集会に2演題を口演発表しました。
    「胸郭変形における胸肋挙上術の検討」(深井)、「左右差がある成人漏斗胸患者に対する胸肋挙上術変法」(飯田)
  • 2019年4月
    【内容更新】2019年3月から当院のホームページの体裁が変わりました。
    当科の記述も『胸壁外科(漏斗胸)』、『手術について』、『よくある質問』に分割されて、それぞれクリックしないと次の記述に移れません。また呼び出し速度が少し遅くなりました。ご了承、ご注意ください。
  • 2018年11月
    【学会発表】Nuss法手術手技研究会にて口演発表2題「胸肋挙上術前後の胸郭の変化」、「突出を主訴にする胸郭変形疾患に対する手術(鳩胸に対する手術)」を発表しました。
  • 2018年10月
    【学会発表】日本胸部外科学会定期学術集会に口演発表「鳩胸に対する異物を留置しない手術」を発表しました。
  • 2018年9月
    【内容更新】ホームページを更新しました。
  • 2018年6月
    【学会発表】第55回日本小児外科学会学術集会に演題「小児漏斗胸に対する胸肋挙上術前後の胸郭の変化」を発表しました。
  • 2018年5月
    【学会発表】米国胸部外科学会(American Association for Thoracic Surgery)に演題「Twenty Four Years Experience of Open Surgical Repair for Pectus Excavatum」を発表しました。
  • 2018年1月
    【治療実績】2017年に徳洲会の病院で胸肋挙上術を受けた漏斗胸、鳩胸の患者さんは55人でした。
  • 2017年12月
    【記事掲載】医学雑誌『心臓』(日本心臓財団)に論文「漏斗胸患者の胸部症状―冠攣縮性狭心症として加療を受けていた2症例を含めて」(飯田浩司、深井隆太 他)が掲載されました。(心臓 Vol.49 No.12 1219-1225, 2017)
  • 2017年11月
    【学会発表】第17回Nuss法漏斗胸手術手技研究会に飯田(2題)深井(1題)が発表しました。
  • 2017年9月
    【学会発表】第70回日本胸部外科学会定期学術集会のSurgical Technique Session(ビデオセッション)において演題「漏斗胸に対するOpen Repairは時代遅れか?」を発表しました。
  • 2017年6月
    【学会発表】18th Chest Wall International Group Annual Meeting のビデオセッションで演題 「Less invasive open surgical repair for pectus excavatum. 」を発表しました。
  • 2017年5月
    【学会発表】第54回日本小児外科学会学術集会で「10歳以下の小児に対する漏斗胸手術の検討」(要望演題) 「Nuss法術後に胸肋挙上術を施行した2例」を発表しました。
  • 2017年5月
    【内容更新】ホームページを更新しました。
  • 2017年3月
    【学会発表】第25回 Asian Society of Cardiovascular and Thoracic Surgery で「Open Surgical Repair for Pectus Excavatum under Eight Years Old」を発表しました。
  • 2016年11月
    【学会発表】第78回日本臨床外科学会総会で「成人の漏斗胸に対する胸肋挙上術」を発表しました。
  • 2016年11月
    【学会発表】日本循環器学会東海北陸地方会で演題『異型狭心症として治療されていた漏斗胸の2例』を発表しました。
  • 2016年10月
    【学会発表】第69回日本胸部外科学会定期学術集会で2演題「漏斗胸に対すより侵襲が少ない手術の開発」「漏斗胸に対する胸肋挙上術前後の胸郭の変化に関する検討」を発表しました。
  • 2016年8月
    【記事掲載】医学雑誌『小児外科』8月号(vol.48, No.8)の特集「最近の漏斗胸・鳩胸の治療」に論文「胸肋挙上術(Sterno-costal elavation: SCE)」が掲載されました。
  • 2016年6月
    【学会発表】第53回日本小児外科学会学術総会、飯田発表
    ビデオ発表「漏斗胸に対する胸肋拳上術の経験」が優秀作品に選ばれました。
  • 2016年5月
    【内容更新】ホームページを更新しました。
  • 2016年5月
    【学会発表】日本呼吸器外科学会総会、飯田、深井発表
  • 2016年5月
    【学会発表】日本小児外科学会総会、飯田発表
  • 2016年5月
  • 2016年4月
    【ラジオ出演】「ラジオサンキュー(84.5MHz)」 愛知県瀬戸市のコミュニティーFM局に出演
  • 2016年2月
    【記事掲載】日本学校保健研修社『健』2016年3月号先生の知りたい最新医学がここにある 「漏斗胸治療の最前線」
  • 2016年4月
    【学会発表】24th Asian Society of Cardiovascular and Thoracic Surgery(アジア心臓血管胸部外科学会総会)
    演題「Open Surgical Repair for Pectus Excavatum in Adults」発表
  • 2016年4月
    【学会発表】第116回 日本外科学会定期学術集会
    演題2題(飯田:口演、深井:ビデオ)発表
  • 2015年11月
  • 2015年10月
    【記事掲載】日刊ゲンダイ(2015年10月20日 14面)
    「有名病院 この診療科のイチ押し治療」
  • 2015年8月
  • 2015年7月
    【講演】第4回 徳洲会小児科部会症例発表会
    「胸郭変形疾患の診断と治療」
  • 2015年7月
    【講演】神奈川県保険医協会 月例研究会
    「胸郭の疾患 胸郭変形(漏斗胸・鳩胸)に対する手術」
  • 2015年6月
    【学会発表】第58回 関西胸部外科学会学術集会
    「高度な左右差を有するMarfan症候群の漏斗胸患者に対する異物を留置しない手術」
  • 2015年6月
    【学会発表】第52回 日本小児外科学会学術総会
    「異物を留置しない小児漏斗胸手術の検討」
  • 2015年5月
    【学会発表】16th Chest Wall International Group 2015(第16回世界胸壁グループ)
    「Nonprosthetic Repair for Pectus Excavatum.」
  • 2015年5月
    【学会発表】23th Asian Society of Cardiovascular and Thoracic Surgery(第23回アジア心臓胸部外科学会総会)
    「Nonprosthetic Repair for Pectus Excavatum in 305 Patients. 」
  • 2015年4月
    【学会発表】第115回 日本外科学会総会
    「低侵襲な小児漏斗胸手術の要件とは」

漏斗胸・鳩胸とは

漏斗胸とは胸がくぼんでいる状態です。人口の400-1500人に一人、約4:1の比率で男性に多く認められ、はっきりした原因はわかっていません。私たちが手術した約600人以上の患者さんの約半数にはご家族に漏斗胸・鳩胸の方がいらっしゃったことなどから先天的な要因が発症に関わっていると考えています。出生直後から陥凹が認められる方が多いのですが、成長に伴って明らかになる方もいます。3歳以下の方は自然に治ることがあると言われています。

12対の肋骨のうち7対が前胸部中央の平らな骨、胸骨に達しています。肋骨の前方、胸骨と付着する部分から数cmの部分は肋軟骨です。肋骨の間には肋間筋があり呼吸の度に収縮を繰り返して胸が動きます。漏斗胸の方は胸を囲んでいる肋骨とその前方に続く肋軟骨に何らかの原因で歪みが生じて前胸部がくぼむと考えられています。くぼみの最深点は通常胸骨の下端付近です。中央部の狭い範囲の陥凹だけではなく、左右が非対称な陥凹、広くて浅い陥凹、突出する部分を合併していたり、左右の肋骨と腹部の境目の肋骨弓が突出していることもあり、胸の形は患者さんによって様々です。漏斗胸、鳩胸の方は痩せていることが多く、手術を受けた方の平均のBMI(肥満度の指数)は18.7と正常の下限でした。

軽度の場合は日常生活にまったく問題はなく、検査の異常もありません。陥凹が高度な場合でも、それ自体で生命が危険に陥り寿命に影響するような疾患ではないことが米国の研究でわかっています。小児では身体的な症状はほとんどありませんが、成人の患者さんの60%程度には胸痛、動悸、息切れなどの症状があります。
漏斗胸や鳩胸による諸問題を改善するために私たちは手術を行っています。小児から成人までの広い年齢層の方に対して、短期間の入院で安全に良好な形が得られ、痛みが続かず、学業や仕事に影響せず、呼吸機能や成長に悪影響を与えない手術が求められます。できるだけ早くすべての活動を再開できること、重篤な合併症や形態の不良-いわゆる「失敗」がなく、全ての患者さんに同様な結果が得られることが手術の必要条件と考えています。

鳩胸は前胸部が突出した状態です。漏斗胸の5%程度の頻度でみられます。健康に大きな影響はありませんが、洋服の上からでも分かるような大きな突出の場合は手術の対象になります。

漏斗胸の症状

小児期には身体的な症状が無い方が多いのですが、体重増加不良や風邪をひき易い、疲れやすさなどが生じることがあります。思春期以降は胸痛、動悸、胸部圧迫感、呼吸苦、疲れやすさなどの症状が出る方が増加し、成人では60%程度の方に何らかの自覚症状があります。心臓や肺が胸壁によって圧迫されている事や変形した胸郭が動きにくい事が原因と考えられていますが、心臓や呼吸の機能が正常値を大きく下回るようなことはありません。漏斗胸の方に胸痛などの症状があることは医師の間にも十分に周知されているとは言えません。心臓病を疑われたり、症状を説明できるような検査の異常がないために症状が放置されたり、「精神的な問題」とされたりすることがあります。私たちの方法で手術するとほとんどの症状は軽快します。
小学校に入学するころになると自分と他人の違いを認識して前胸部の形が気になるようになります。このような精神的な症状を親御さんにも相談できずにいるお子さんもいます。

漏斗胸に伴う検査の異常

漏斗胸の患者さんは、健康診断で検査の異常を指摘されることがあります。
心臓が押されてつぶれたり、左側に移動したりするために、胸部レントゲン写真では心陰影が大きく見えたり、位置が変わり、心拡大の診断を受けることがあります。また陥凹の影が肺炎のように見えることもあります。心電図では電極と心臓の位置関係がずれて波形が変わってしまうために右脚ブロックなどの異常を指摘されることがあります。心雑音や心音の異常は心臓の位置の変化のために血液の流れが一部変化するためと考えられています。除脈、頻脈などの心拍数の変化があることがあります。呼吸機能検査の値はわずかに低下します。しかし通常は日常生活に大きく影響するような心肺機能の異常ではありません。

どのような場合に手術の対象となるか

漏斗胸の程度の評価には様々な方法があります。しかし患者さんによって左右対称か否か、広く浅いか、狭く深いか、胸板の厚さなどの違いがあり、陥凹を数字で表すことには限界があります。私たちは体表面からの簡便で被爆のない評価として、陥凹部分の容積が概ね患者さんの手拳の体積と同等以上である場合には手術を考えます。つまり患者さん自身の握り拳が胸に埋まる程度くぼんでいて、手術を希望する場合に手術を行います。また胸部レントゲン写真で心臓が左に変位している方や心電図異常を生じている方は心肺への影響が客観的に証明できると考えて手術を考慮します。3歳以上になったら手術を考えますが、一般的には小学校入学前後が最適時期と考えます。それは骨が柔らかく小さな傷から手術が可能であり、術後の形もきれいになること、集団生活による精神的な影響がまだ生じていないこと、患者さん自身が手術をある程度理解できて入院生活に適応できることなどからです。

私たちは外来受診していただいた患者さんに胸部CT(断層写真)を撮影して、数値化したり、定期的に撮影を繰り返したりすることはしません。CTは被爆量が多いので、特に子供さんに対する不必要な撮影は行いません。これは原発事故以前からの私たちの方針です。高校生以上の方では、症状を有することが多く、心臓や肺への影響が生じている可能性があるため初診時に胸部レントゲンと心電図の検査を行います。
受診していただいた方に強く手術をお勧めすることは致しません。ご本人の状態や疾患の特徴、手術方法について詳しくご説明いたしますので、十分に考えて結論を出してください。

手術の方法について

私たちは前方の肋骨、肋軟骨が長く急峻な角度で下方に向かうという漏斗胸の方の特徴に対して、肋軟骨の一部を切除短縮して断端を再縫合する胸肋挙上術変法をすべての患者さんに対して行っています。これは和田()らが小学生以下に対して行っていた術式を独自に改良した方法です。胸肋挙上術変法では、呼吸のために必要な胸の動きを妨げる金属など異物による固定を行わず、肋骨の弾力によって胸郭を矯正、固定します。

  • 故和田壽郎氏 札幌医科大学名誉教授 元東京女子医科大学教授 著書「胸郭変形」(文光堂)などに術式の詳細があります。飯田の研修時代の恩師です。

胸肋挙上術変法(SCE)

胸部正中縦の皮膚切開(女性では乳房下の曲線の横切開を用いることがあります)から、第3または第4肋軟骨から第7肋軟骨の一部を切除し(青色部分)断端を糸で胸骨に再縫合します。胸骨の下端の陥凹の最深部1-2cmを切除することによって心臓への圧迫を除去し、術後の形態が良好になり、矯正力が増し、年長者にもこの術式を適応できるようになりました。

胸肋挙上術変法

5歳男児 胸部CT

5歳男児胸部CT
                           前胸部の陥凹は消失し、心臓への圧迫が解消されています

  • 漏斗胸の胸郭

    (左)漏斗胸の胸郭:赤色部分は肋軟骨です。
    (右)胸肋挙上術後:上から3から7番目までの肋軟骨が術後は短くなっています。

  • 漏斗胸の胸郭側面

    (左)漏斗胸の胸郭側面:肋骨は前方に行くほど急な角度で下方に向かっています。肋軟骨と胸骨は脊柱に向かって陥凹しています。
    (右)胸肋挙上術後側面:肋骨の走行の角度は若干緩やかになっています。そのために胸郭の前後径が大きくなりいわゆる胸板が厚くなります。胸骨下部の陥凹は改善しています。

我々の術式の特徴

胸部CT

短い単一の創から施行可能で、切除短縮し引き寄せて再縫合された肋骨・肋軟骨が元に戻ろうとする弾力が胸骨を両側から引きます()。その合力()が陥凹を上昇させ胸部は適度に固定されます。動かないように金属などで固定するのではなく、肋骨が両側から引く力が変形を矯正するユニークな方法です。作用反作用の法則によって、左右非対称な胸郭や突出を合併している胸郭も良好に矯正することが可能です。漏斗胸の方に特徴的な前後径が薄い胸郭も改善します。矯正した軟骨を筋層で覆う事によって筋の機能の維持、形態の改善を得るだけでなく、筋肉を介した血流により感染の予防、早期治癒が期待できます。皮膚の縫合には細い糸を用いてできる限り痕が残らないように工夫しています。手術の方法は必要に応じて改良を加えています。胸骨の下端を削ったり、胸骨の捻じれを取るために胸骨骨皮質に斜めの割線を入れたりする工夫によって、変形の強い成人に対しても胸肋挙上術ができるようになりました。胸郭は呼吸のために24時間動きます。胸腔内を広く保ち、呼吸による胸郭の動きを妨げないように切断端を縫合します。そのため手術終了直後から自分で呼吸することが可能で、肺炎等の重篤な合併症の危険が回避され、安静も短期間で装具等も必要ありません。術後の入院期間は1週間以内と短期間で済みます。呼吸機能に悪影響を与えません。難点は患者さんにより体型、変形の程度、骨軟骨の硬さに差があり、熟練を要する事です。
胸肋挙上術変法は胸骨上部に割線を要さないこと肋軟骨をすべて再建する事、などから従来ひろく行われていたラビッチ法とは異なる術式です。

手術結果

1993年から2020年12月までに、3から56歳、平均16.2歳の608人の患者さんに手術を行いました。心臓手術を同時に行った方以外では輸血を要した患者さんはなく、術後の人工呼吸を要した方もありませんでした。つまり患者さんは手術室で目が覚めて自分で息をしながら一般病棟に帰ってきます。術後の形態にご不満を訴えた方はなく、出血、固定の不良、再変形、肺合併症等理由の如何を問わず再手術や長期入院、長期の運動制限を要した方はいませんでした。

胸肋挙上術

6歳男児

6歳男児


高度な陥凹が改善し創は目立ちません。術後(創長4.0cm)
胸部レントゲン写真では心臓の影(中央の白色部分)が著明に小さくなりました。

15歳男性

15歳男性_胸壁外科

上部まで及ぶ左右差がある陥凹が胸肋挙上術によって改善します。

16歳男性

16歳男性

中央の陥凹が改善し、肋骨弓(左右の胸と腹の境目)の突出が消失しています。

19歳男性

19歳男性

成人の体型の方でも胸郭の左右差、胸骨の傾きが著明に改善しました。

成人女性

成人女性_胸壁外科

胸郭、乳房の左右差が手術によって著明に改善し、胸郭の前後径も増加して心臓への圧迫が解除されています。
右:手術前 左:胸肋挙上術後

左右差の改善

側湾・左右差の改善

術後は胸郭の厚みの左右差が消失しています。

心臓への圧迫の解除

手術前(右)には胸骨下部が心臓に食い込むように圧迫し胸痛を訴えていましたが、
胸肋挙上術後(左)では圧迫は解除され、胸痛は消失しました。

胸の厚みの改善

胸肋挙上術によって胸の中心の陥凹、左右差、胸の厚み(前後径)が改善します。

術後の形態は良好で、長期入院を要する肺炎や骨軟骨の感染、大量出血等の重篤な合併症は認めず、いわゆる失敗例はありませんでした。痛みは他の術式に比して少なく、小児では硬膜外麻酔は使用せず、4日目以降に痛み止めを要したお子さんはいませんでした。成人の方でも退院後に鎮痛剤を必要とする方は少数です。新幹線や飛行機で来院する方もいますが、最近の400人の手術後の平均入院期間は5.8日で、8日以上の入院を要した方はいませんでした。小児ほど傷が小さく、形態もきれいで、術後の回復も早い傾向があります。前胸部中央の縦の創の長さは6歳以下で3.6±0.7cm、7-11歳では4.3±1.0cm、12-15歳以上では5.7±1.6cm、16歳以上では6.7±1.9cmでした。特殊なテープを傷に約6か月間貼ることによって、ほとんどの方で創部の肥厚が予防できます。

成人で手術前後の呼吸機能を比較すると、術前に明らかな異常な値ではないために、術後の改善傾向はわずかでした。胸肋挙上術は呼吸機能に悪影響は与えません。
胸部CTでは陥凹が改善するだけではなく、胸郭の左右差は目立たなくなり、心臓への圧迫が取れて、つぶれていた心臓の影が丸くなります。また肋骨の走行が変わることによって胸郭の前後径が増加し、いわゆる胸板が厚くなります。肋軟骨の一部を切除しても胸の体積が小さくなることはありません。これらは200人以上のCTを手術前後に計測して明らかになった胸肋挙上術の利点の一つです。
小児では食欲が増加した、かぜをひかなくなった、疲れにくくなった等の改善を見ることがあります。成人では胸痛、呼吸困難などの症状を有した方のほとんどが改善しました。

鳩胸について

胸が突出した鳩胸では漏斗胸のように内臓が圧迫されることはありませんが、着衣で隠せないほど突出している場合には精神的な影響を考えて手術の対象になります。鳩胸の方では左右の乳房下が陥凹していることも多いのですが、胸肋挙上術変法を応用した手術方法で突出陥凹ともによく矯正されます。典型的な鳩胸の患者さん約40人に手術を行っています。

13歳男性

    • 鳩胸

      (左)鳩胸:胸骨下部が大きく突出し乳房の下が軽度陥凹しています。
      (右)鳩胸手術後:前胸部の突出は著明に改善しています。乳房の下の陥凹も改善しています。

    • 鳩胸の胸郭

      (左)鳩胸の胸郭:胸骨下部と肋軟骨が大きく突出しています。
      (右)鳩胸の胸郭術後:突出は改善しています。

14歳男性

鳩胸術前  鳩胸術後
(左)鳩胸手術前          (右)鳩胸手術後

術後の生活について

手術の翌日から歩行や食事が可能です。小児では3-4日目には痛みが和らぎ元気に動けるようになります。成人では痛みがやや続くことがありますが退院後には鎮痛薬が必要なほどの痛みはほとんどありません。装具などによる固定は必要ありません。1週間以内に退院が可能ですが、軟骨が癒合し元の強度になるには時間を要します。手術から4週間(退院後3週間)程度の自宅安静、さらに2ヶ月間(手術後3ヶ月目まで)の運動制限が必要です。通学、仕事の開始は手術後1ヶ月目ごろ、体育の授業、クラブ活動、重労働などは手術後3か月目から可能です。3ヶ月目以降に運動、行動の制限は全くありません。春夏冬の休み中に手術をするお子さんが多くいます。

長期の結果について

胸肋挙上術変法では金属棒などの異物での固定による合併症はなく、摘出するための再手術は必要ありません。10歳以下の150人以上に手術を行っていますが問題となる合併症はありませんでした。肋骨肋軟骨への血流が維持されるために残された肋軟骨は成長します。再度陥凹することはまれです。

右から手術前4歳、1年後5歳、13年後17歳です。

漏斗胸手術の歴史と他の術式について

漏斗胸手術は1911年にMyerによって初めて行われたとされています。その後肋骨や胸骨を切断、切除する方法、体外から胸骨を吊り上げる方法、異物で固定する方法など様々な術式が行われてきました。1940年代にRavitchによって開発された胸骨上部に割線をいれて肋軟骨を切除する方法は世界中で広く行われていましたが侵襲が大きく、難しい術式です。和田は1959年から胸骨翻転術を施行しています。1981年に和田らは小児に対する胸肋挙上術を発表しました。これが当院の手術法の元になりました。

1998年に米国の小児外科医Nussらは金属のペクタスバーにより胸郭を内側から固定する術式を発表しました。骨軟骨を切らず、側胸部の肋骨の間から胸骨の下に金属棒を通して、その両端を肋骨の間に挟んで固定します。13-17歳を最適な対象年齢とし、それ以下の小児では成長によって金属棒が合わなくなることや、合併症や再発が高率であることをNuss先生は発表しています。骨や軟骨を切らないことや前胸部に創が無いことがそれまで広く行われていたラビッチ法に比べて低侵襲であると発表されましたが、私たちは呼吸や体動の度に動く胸を金属で長期間固定する事による影響は少なくないと考えています。欧米の1000人以上の手術を行っている病院でも異物が感染したりずれてしまったりする合併症が10%程度と高率に報告されています。金属を留置する約3年間は激しい運動が制限されます。肋骨の間に異物を挟むために強い痛みが長く続きます。従来のラビッチ法に比べて比較的容易に施行できることから本邦でも普及していますが、我々は合併症や痛みが少なく、すべての患者さんがより早く、完全に元の生活に復帰することこそが低侵襲であると考えています。そのためナス法での手術は行いません。また、ナス法を含めてどの術式でも手術の熟練度が合併症の頻度や術後の形態に影響することが報告されています。

術後合併症の頻度の比較

胸肋挙上術変法 608件の手術の合併症

再手術 0
輸血 0
皮膚感染 1
骨軟骨の感染 1
気胸(処置を要する) 3
胸水(処置を要する) 0
胸郭の固定不良 0
疼痛の遷延 0

Nuss法の合併症
1463件の手術の結果 Nuss D et al.  Ann Cardiothorac Surg 2016;5:422 
急性期合併症(%)

気胸 3.8
薬への反応 2.9
縫合部の感染 1.9
肺炎 0.9
胸水 0.9
心嚢炎 0.6
血胸 0.3
一時的麻痺 0.1

慢性期合併症(%)

修復を要した異物の移動 3.7
過度な修正 3.1
金属アレルギー 1.5
創部感染 1.5
再発 0.9

1713件の手術の結果(%) Pilegaard HK Ann Cardiothorac Surg 2016; 5:445

バーの回転 1.2
バーの移動 0.8
深部の感染 0.9
痛みによる固定器除去 1.4
胸骨骨折 0.1
胸骨切開を要する合併症 0.1
バーの早期除去 0.4
肺炎 0.6
気胸 1.1
皮下浸出液貯留 0.4
胸水 0.3
手術を要する出血 0.1
バー断端の胸腔内への脱落

0.2

上記2論文の統計には痛みが続いた割合(疼痛の遷延)は含まれていません。

ナス法術後(バー抜去後)のCTの一例

ナス法術後

左)2本の金属バーを肋骨間に留置していたことによる肋骨の変形がみられる
右)胸壁のゆがみが生じている

成人の手術について

骨軟骨に可塑性が残る25歳ごろまでの手術が望ましいと考えます。しかし成人の漏斗胸患者さんの半数以上は症状を有するため放置はできません。成人後に初めて来院される方も少なくありません。胸肋挙上術変法は成人にも手術が可能です。手術を受けた方の約10%は30歳以上でした。30歳を過ぎると軟骨の石灰化が進んでもろくなり手術は難しくなりますが、我々は手術に改良を加えて、成人を含めてすべての方に十分な矯正が得られるように努力しています。手術後は胸痛や呼吸苦などの身体的な症状は改善します。成人女性で右側の胸壁の陥凹によって乳房に左右差がある方は胸肋挙上術によって胸壁と乳房の左右差がよく改善します。

費用について

漏斗胸の診察、手術は健康保険が適応され自己負担額は高額医療の限度額以内です。18歳未満で心臓や肺が陥凹によって圧迫されて機能障害が生じている方は都道府県に自立支援医療の申請をすると、費用の原則として90%が公費でまかなわれます。また小児の入院費は自治体による補助制度があります。住居地の保健所などにご相談ください。

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胸肋拳上術に関する最近の論文

  • Nonprosthetic Surgical Repair of Pectus Excavatum. Annals of Thoracic Surgery 2006; 82: 451-6, H Iida, et al *1
  • 小児に対する異物を留置しない漏斗胸手術 小児科診療 2007; 70: 513-7 飯田浩司、他
  • Surgical repair of pectus excavatum not requiring exogenous implants in 113 patients. Eur J Cardiothorac Surg. 2011; 37: 316-321 H Iida, et al *2
  • Surgical repair of pectus excavatum. (review) Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2010; 58: 55-61 H Iida *3
  • 胸郭異常:漏斗胸の外科治療  専門医のための呼吸器外科の要点と盲点II 188-194 文光堂 (2010) 飯田浩司 *4
  • 異物を留置しない漏斗胸手術 胸部外科 2011; 64: 1135-1140
  • 胸肋挙上術 小児外科 2016;48:829-832
  • 漏斗胸患者の胸部症状ー冠攣縮性狭心症として加療を受けていた2症例を含めて 心臓 2017; 49: 1219-1225
  • Nuss法の問題点と他の手術法 漏斗胸の安全・低侵襲な治療法 Nuss法のup to date 2021 医事新報 電子版

*1 米国、*2 欧州、*3 日本それぞれの胸部外科学会の機関誌です。
*4 呼吸器外科医のための教科書の漏斗胸についての章を執筆しました。

胸肋拳上術に関する2006年以降の学会発表

全国または国際学会から主なものを抜粋

  • 日本外科学会総会:2006年、2007年、2008年、2011年、2012年、2015年、2016年、2017年
  • 日本胸部外科学会総会:2006年、2008年(優秀演題)、2010年、20011年、2012年、2013年、2016年、2019年
  • 日本呼吸器外科学会総会:2009年、2014年、2016年、2019年
  • 日本小児外科学会総会:2015年、2016年、2017年、2018年、2020年
  • Nuss法漏斗胸手術手技研究会:2017年、2018年、2019年
  • European Association for Cardio-Thoracic Surgery(欧州心臓胸部外科学会):2008年、2014年
  • Asian Society of Cardiovascular and Thoracic Surgery(アジア心臓血管胸部外科学会):2012年、2015年、2016年、2017年、2020年
  • American Association for Thoracic Surgery(米国胸部外科学会):2018年
  • Chest Wall Inernational Group (世界胸壁研究会):2015年、2017年

スタッフ紹介

飯田 浩司
飯田 浩司
日本外科学会専門医・指導医、日本心臓血管外科専門医・修練指導者
深井 隆太
深井 隆太
日本外科学会専門医・指導医、日本呼吸器外科専門医・評議員
西田 智喜
西田 智喜
日本外科学会専門医・指導医、日本呼吸器外科専門医

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