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胸壁外科コラム

胸壁外科(漏斗胸) メニュー閉じる開く

<Vol.33>第21回Nuss法漏斗胸手術手技研究会報告2

前回から間が空いてしまい申し訳ありません。
手術では合併症の頻度、入院期間、疼痛の遷延、患者さんの満足度などの「手術成績」がとても大切です。私たちはできる限りこれらを発表しています。今回は会長要望演題として「Nuss法の手術成績」を募集しましたが、統計学的にきちんと処理した発表はほとんどありませんでした。胸郭変形に限らず、どこでどのような方法の手術を受けるかの判断には病院の名声や手術の数だけではなく、過去の手術結果を統計的に整理して発表しているか否かがとても参考になります。
もう一つ気になったのは、ナス法以前の様々な方法を理解していない発表があったことです。1998年のナス法発表以前には様々な方法が行われていました。肋軟骨を切ること=ラビッチ法、ではありません。先人の業績を吟味し、失敗を繰り返さないためにも温故知新が大切です。ラビッチ法の要件は胸骨上部の骨皮質に割線を入れること、肋軟骨を広範に切除しその一部しか再建しないことです。主に変形部分の切除によって矯正します。胸郭の弾力によって矯正する胸肋挙上術はラビッチ法とは原理が異なる術式です。

<Vol.32>第21回Nuss法漏斗胸手術手技研究会報告1

 2022年11月12日に鎌倉市内で第21回Nuss法漏斗胸手術手技研究会を開催いたしました。漏斗胸、鳩胸などの胸郭変形疾患について論ずる国内唯一の研究会であり、全国から小児外科、形成外科、胸部(呼吸器)外科、小児科、学校保健などの専門家が集まり発表と議論を行いました。プログラムはNuss法研究会のホームページに掲載されています。
 1998年にNuss法が発表された直後より毎年この会が開かれ、手術方法の改善に寄与してきました。今回もNuss手術の手術方法についての演題が多くありました。
 会場は古刹建長寺の大広間をお借りしました。お寺で学会が行われることはまずありませんが、建長寺のご厚意でお借りすることがきました。秋の好天にも恵まれ、日頃忙しい参加者にも落ち着いた雰囲気にご満足いただいたようでした。

<Vol.31>異例の早さで梅雨が明け猛暑が続いています

毎年この時期には春の学校検診の結果が通知され、時間がとれる夏休みの間に胸壁外科外来を受診される方が増えます。湘南鎌倉総合病院胸壁外科では週1回の外来診察を、8月末までは週2回に増やしております。

お電話にて予約(代表:0467-46-1717 → 電話交換 → 胸壁外科外来)をされてからご来院ください。

お待たせする事がありますことをご了承ください。

<Vol.30>手術の数とコロナ禍

 2021年に私たちが5つの徳洲会病院で手術を行った胸郭変形疾患(漏斗胸、鳩胸)の患者さんは78名でした。すべての患者さんが7日以内に退院し、退院後に鎮痛剤が必要となるような痛みはほとんどありませんでした。
 コロナ禍によって2020年の手術件数は減少しました。2021年は一時手術ができない時期がありましたが、年間の手術数は過去最高になりました。手術の数だけでなく、質を高めていくように今後も努力いたします。
 2022年2月の現在は、神奈川県知事から急を要さない疾患の手術は延期するように要請されています。
 胸壁外科の外来診察は通常通り行っていますが、移動に不安がある方は、感染が落ち着いてからのご来院をお勧めいたします。それまでは毎月1回、曜日や時間を変えてインターネット上で公開医学講座を配信しておりますのでご参考ください。

<Vol.29>2021年秋の学会

10月にはNuss法漏斗胸手術手技研究会、11月には胸部外科学会と漏斗胸手術に関連する学会で発表をしました。後者は会場での参加が可能で2年ぶりに対面での議論が行われました。これらの会で気が付いたことがあります。

今までは、どのようにしたらNuss法が安全に行えるかが議論の中心でしたが、たくさんの手術を行っている病院ではさらに進んで、左右非対称や外側まで陥凹が及んでいるなど通常のNuss法では矯正が難しい患者さんをどのように直すかを考えています。海外を中心にバーを複数本入れる、X型に交差して入れるなどの工夫が行われていますが、肋骨、肋軟骨、胸骨に割線を入れたり切除したりする工夫が複数の施設から発表されました。軟骨や胸骨を切らないから低侵襲であるとされていたNuss法が変化して、私たちが行っている胸肋挙上術変法(SCE)に近づいてきた気がします。「肋軟骨を切除するならバーはいらないのでは?」という質問もありました。私たちの方法ではバーは留置せずに左右非対称や突出した部分がある胸郭もよく矯正します。

SCEは広く認知されています。胸部外科学会では漏斗胸演題10題のうち3題がSCEに関連するもので、質問などの反応はおおむね好意的でした。しかし一部には20世紀に行われていたラビッチ法や胸肋挙上術原法と現在のSCEの違いを理解されていない方もいるようです。20世紀の方法の欠点を改良し、Nuss法の欠点を克服すべく工夫を重ねたのが私たちのSCEです。引き続き手術方法の改善と発信に努めていきます。

またNuss法を行わない私たちが、2022年の秋に「Nuss法漏斗胸手術手技研究会」を主催することになりました。この会に参加させていいただいて多くの事を学びました。ぜひ有意義な会にしたいと思います。

<Vol.28>現状

2021年9月中旬になってコロナウイルス新規感染者は減少傾向に転じています。しかし入院が必要な方はまだ多く、資材、人材が足りない状態が続いています。私たち徳洲会の病院ではコロナウイルスの患者さんを含めて、原則としてどのような方でもお断りする事はありません。先日は一日に70台を超える救急車が来院しました。
健康保険が適用される病気に「不要不急」なものはないはずですが、その中でも急を要する疾患に限られたベッドや人材を投入しなければならず、一部の病院では胸郭変形の手術ができない状況があります。ご理解いただきたくお願いいたします。
ワクチンの接種はご本人のみならず、集団としての感染を抑制するためにも有効です。できる限り早期に接種する事をお勧めいたします。

<Vol.27>オンライン講座

コロナウイルス感染症が続いています。新学期になっても休校が続き、多くの学校で夏休み期間も変更になりました。今年の夏は漏斗胸の手術を受ける方が少なくなりました。当院ではできる限りの感染予防をして、他の手術も含めて通常通りの手術を行っています。漏斗胸の手術は1-2年待っても同質の手術が可能です。今後もご希望の時期に手術ができるようにご配慮いたします。
コロナウイルス感染症に限らず、正しい知識をご理解いただくことが不安を解消して健康を維持するために大切だと考えています。私たちはコミュニティーセンターなどをお借りして、公開医学講座として病気やその治療法、健康増進法などのご説明を行っていました。集まっていただく事が難しくなったので、5月末からはインターネットを使ってオンラインでご説明を行っています。幸いリモートワークやオンラン授業でオンライン環境に慣れた方が増えてきました。私たちも使い方を一から勉強しました。漏斗胸のご説明は、昼休みや5時過ぎの時間帯など時間を変えて月に1回程度行っています。Zoomソフトを無料でダウンロードして、当院にご連絡いただければ講座のIDとパスワードをお送りいたします。漏斗胸や鳩胸に悩んでおられる方は是非ご覧いただければと思います。日程など詳しくはホームページをご参照ください。

<Vol.26>今後の診察と手術

新型コロナウイルス感染症によって学校が休みになったり、行動が制限されたり、医療に大きな負荷がかかったり、非常事態が続いています。
4月末の時点では、湘南鎌倉総合病院での胸壁外科診察、手術は今後も予定通りに行う方針です。ただし感染の広がりによっては予定を変更する可能性もあります。
すでに受診されている方で夏休みの手術をご希望の方はメールでお知らせください。
外出には感染の危険が伴います。胸壁外科を初診する方はコロナウイルス感染が落ち着いてから受診していただくことをお勧めいたします。
不確かな情報を信じず、不要な外出はしない、買い物は一人で行く、夜の街には絶対に行かない、今は遠くの海や山も我慢する、などを守って早く通常の生活に戻れるように努めましょう。

<Vol.25>感染症

新型コロナウイルス感染が広がっています。
経験したことがないウイルスには免疫が働かないのでかかりやすいのです。多くの方には感冒程度の症状しかなく、軽症の方から老人や疾患を持った方にうつると重症化するようです。自分や家族を守ると同時に、隣人や社会を守るために、必要がなければ人ごみには行かない、体調が悪い時には自宅で安静にする、などを守ってください。早期治療が大切と言っても、いわゆる特効薬はありません。インフルエンザのように早めに内服すれば有効な薬はありません。軽症でも外出すれば他人にうつす可能性があります。自宅安静と病院での治療の見極めが難しくなりますが、重症化しそうなときは医療機関に連絡してください。
多くの医師や医療関係者、保健所や厚生省の人たちは見えないところで大変な働きをしています。世間にはいろいろな情報が飛び交っています。ネットの情報には正しくないものが多くあります。出所が不確かな情報は信じない、拡散しないようにしましょう。医師でもエビデンス(コラムvol.5参照)に基づかない考えを持っている人もいます。研究者と実際に診察している医師とでは意見が異なる事もあります。政治家は政治的判断を優先する事があります。テレビは視聴者を多く獲得するために趣向を凝らす過程で情報の精度が落ちて誤解が生ずることがあります。
100年ほど前のスペイン風邪では世界中で2,000万人以上が亡くなったと記録されています。現在は人口が増え、人々の移動も比較にならないほど高速に、大量になっています。しかし科学と医学は格段に進歩し、情報も時間差なく世界中に伝わります。
デマに惑わされたり、誰かを責めたりせずに、正しい情報を知って自分と家族、社会を守りましょう。

<Vol.24>第19回Nuss法漏斗胸手術手技研究会

2019年11月に前橋市で第19回Nuss法漏斗胸手術手技研究会が開かれました。この会は漏斗胸についての様々な話題を論じる会で、Nuss法を行わない私たちも全35演題のうち5題を発表させていただきました。国際学会であるChest Wall International Group 学会には及びませんが、漏斗胸手術を行っている国内の施設から多くの医師や医療関係者が集まりとても勉強になります。私たちの演題は、①今年の会のテーマである「患者にやさしい漏斗胸手術」であるためにはどのようなことが必要であるか。②胸肋挙上術変法は過去の術式からどのように進化したか(コラムvol.23参照)。③胸肋挙上術変法手技の動画での説明。④漏斗胸の胸郭に特徴的な変化が胸肋挙上術変法でどのように正常に近づくか。⑤現役の養護教諭である共同研究者が漏斗胸の患者さんの心理的な問題と学校での取り組み方を検討した演題、です。
毎年参加する先生方も多く、忌憚のない討議が行われます。Nuss法に対する発表が、私たちが胸肋挙上術を改善するための参考になることもあります。
この会に参加している先生方には、陥凹と突出の両方の部分を持つ患者さんや思春期前の患者さんでは胸肋挙上術変法に優位性がある事をご理解いただいている先生方が増えていると思います。患者さんをご紹介いただく機会が増えました。

<Vol.23>胸肋挙上術変法と過去の術式の相違点2

2019年11月の第19回Nuss法漏斗胸手術手技研究会には『胸肋挙上術変法と過去の術式の相違点』という演題を発表しました。手術の方法も歴史を学び、そこから進化していかなければならないと考えているからです。胸肋挙上術変法は漏斗胸の胸郭の特徴を理解し、過去の術式を研究して進化してきました。 1940年代に米国のRavitchによって開発されたラビッチ法は肋軟骨を広範に切除し、胸骨に割線をつけて変形を矯正します。原法では肋軟骨の一部しか再建しないので、金属棒や自己肋軟骨を非解剖学的位置に置いて下部胸骨を固定する変法が行われていました。創は大きくほぼ胸骨全長に渡ります。下部胸骨の固定が不十分だと呼吸が十分にできずに長期の人工呼吸が必要になることがあります。Nuss法以前の欧米では手術方法の主流でした。 胸骨翻転術は1960年代に和田壽郎らによって普及しました。第2肋間以下の胸骨と肋軟骨を一塊に摘出し、形を整えて裏返しにして固定します。剥離は広範で、胸壁の固定、生着などが問題点でした。長く日本の医学書に記載されていたため、いまだに多くの医師が漏斗胸手術と言えば翻転術と記憶しています。 胸肋挙上術原法は1980年代に和田の弟子たち(小生の学兄)によって開発されました。主に12歳以下の小児では胸郭に可塑性が残っているので、胸骨を切断・翻転することなしに肋軟骨の一部を切除、短縮してすべての断端を再建すると、肋骨の弾力によって胸骨の陥凹は引かれて矯正されます。肋間筋を広範に剥離し創は比較的大きくなります。中学生以上のほとんどの患者さんには十分な矯正ができないため、引き続き翻転術が行われていました。 それ以外にも多くの手術方法がありました。「軟骨を切除するのはすべてラビッチ法」ではありません。 胸肋挙上術変法では原法とは異なり肋間筋ほとんど剥離しないので胸壁が一塊として動き手術後に呼吸が保たれます。また胸骨を両側に引く矯正力が強くなります。陥凹の最深部である第5肋間以下の胸骨下端を切除し断端に第6-7肋軟骨を再縫合することによって胸骨は尾側にも引かれて矯正力が増し、強い左右差や成人にも適応できるようになりました。また突出した部分がある場合は反作用で引き下げられ矯正されます。最近では肋軟骨を頭側に0.5-1肋間引き上げて胸骨と再縫合することにより、漏斗胸に特徴的な腹側で急峻に尾側に向かう肋骨の走行を矯正して胸郭前後径を増加させ、胸板を厚くすることが可能になりました。創は原法の半分以下の長さで、入院期間も短くなりました。原法とは対象年齢、創の大きさ、手術後の形、入院期間、通院回数など大きく改善していますが、原法を開発した諸先輩に敬意をはらい、胸肋挙上術との名称を継続しています。原法は20年近くいずれの施設でも行われていません。 歴史を知りそこから学び常に変化していく事、先人の失敗を繰り返さないこと、温故知新が大切であると思っています。

<Vol.22>胸肋挙上術変法と過去の術式の相違点1

「胸肋挙上術変法を過去の胸肋挙上術原法と混同して批判している医師がいる」最近相次いで患者さんからこのようなメールをいただきました。私もこのことが気になっていました。患者さんは違いをよく理解されています。2019年11月のNuss法漏斗胸手術手技研究会では『胸肋挙上術変法と過去の術式の相違点』という演題を発表して違いを説明いたしました。聞いていた先生方にはご理解いただいたものと思います。この学会はNuss法を行わない私たちにも大変勉強になる会です。全35演題のうち私たちが胸肋挙上術変法に関して5題を発表させていただいたことからも胸肋挙上術変法が一定のご理解をいただいていることがわかるかと思います。胸肋挙上術変法をご理解いただけないのは、このような勉強の機会に参加しない、あるいはご自分の発表が終わると会場を出てしまうような方ではないかと思います。一人の医師、一つの病院でできることは限られていいます。学会などを利用して知識を広げることは大切だと思っています。
漏斗胸は前胸部の形の異常だけではなく、背骨から胸骨までの肋骨肋軟骨の異常です。胸は亀の甲羅のような動かないものではなく、呼吸や体の動きによって動く臓器です。それを手術するためには構造(解剖学)と機能(生理学)を理解する必要があります。私たちは美容形成としてではなく、機能の改善と身体症状の消失を目標としています。胸痛がなくなった、持久走が苦しくなくなったなどの改善を目指しています。
次回は胸肋挙上術変法と過去の術式の相違点についてご説明いたします。

<Vol.21>漏斗胸手術に適した年齢

Nuss先生やヨーロッパ、南北アメリカの先生方は、Nuss法での手術は12-15歳まで待ってから行う方が良い、とかねてから言っています。それ以下の年齢では胸郭が柔らかくバーの留置は容易ですが、成長に伴ってバーのサイズが合わなくなってずれたり、バー抜去後の成長に伴って陥凹が再発する可能性が高いからです。これらのことはNuss先生たちの長い経験で明らかになっています。先日のNuss 法漏斗胸手術研究会では今年も小児のNuss法の発表が複数ありました。Nuss先生が否定している年齢で手術をしている理由を尋ねてもどこからも明確な答えはありませんでした。
Nuss法で手術を受ける場合には、思春期に急に背が伸びた後が推奨される年齢であることをご理解下さい。それ以前の年齢で手術を勧める医師には、Nuss先生が否定する年齢で手術を行う理由根拠を尋ねてください。「骨と軟骨が柔らかくて留置が容易だから」、とか、「患者さんが希望するから」、では患者さんの事を考えているとは思えません。思春期前の手術で多いと言われる合併症や再発をどう防いでいるかを尋ねてください。医師は専門家として先人の経験を重んじなければなりません。手術後の事も責任を持たなければなりません。手技が容易だから、患者さんが希望しているから、などの理由で安易に手術を行う事は慎まなくてはならないと考えます。
海外の論文で年齢について書いたものは多数ありますが、Nuss先生の論文を下記に示します。

Pectus excavatum from a pediatric surgeon’s perspective

Donald Nuss, Robert J. Obermeyer, Robert E. Kelly Jr

Ann Cardiotborac Surg 2016;5(5):493-500

                                                             At

CHKD,we ideally prefer to wait until the patients are 12 to

15 years of age before offering the MIRPE, since the chest

wall is still malleable at that age, there is quick recovery,

and recurrence rate is low since the bars will be in place

past the peak age of most children’s pubertal growth spurt.


CHKD:Nuss先生の病院
MIRPE:Nuss法による漏斗胸手術

<Vol.20>手術方法

漏斗胸手術を多く行っているほとんどの病院ではNuss法を行っています。学会でNuss法以外の手術について発表するのは私たちだけです。そうであるからこそ、手術方法をより良くする努力を続け、ひとりよがりにならないように議論に耐えるようにデータをまとめて発表しています。
2018年には呼吸器外科心臓外科分野では最も権威がある学会である米国胸部外科学会(AATS)に胸肋挙上術の演題が採用され口演発表しました。2019年秋のヨーロッパ心臓胸部外科学会(EACTS)に演題が採用され発表する予定です。
国内では2018年秋のNuss法漏斗胸手術手技研究会のテーマは「Nuss法&様々な胸郭形成術」でしたが、Nuss法以外の手術について発表したのは私たちの胸肋挙上術だけでした。本年の同学会のテーマは「患者にやさしい漏斗胸治療」ですが、会長の浜島昭人先生のごあいさつの中には「・・・異物を用いずバー抜去術が不要である胸肋挙上術や、・・・」との記述があります。
40年近く前に小学生以下の患者さんに対して開発された胸肋挙上術をすべての患者さんに適応し、合併症が少なく、より良い矯正が得られ、早期にすべての活動に戻れるように私たちは今も改良を重ねています。手術方法を開発した諸先輩に敬意をはらって術式名は変えていませんが、私たちの胸肋挙上術変法は当初の手術とは対象年齢、創の大きさ、入院期間、手術後の形など全く異なります。そのことが次第に認知されつつあります。Nuss法に対して、もう一つの選択肢alternativeとなるように、胸肋挙上術を振り返って、さらに改良できるように今後も務めていきます。

<Vol.19>夏休み

夏休みが近づき漏斗胸、鳩胸の手術が増えてきました。2019年の7月8月には20人以上の方の手術を予定しています。ご希望の時期に手術ができなかった方もいらっしゃることをお詫びいたします。
私たちのこのホームページを閲覧していいただく方が増えて、月間4,000人以上になりました。そのため外来診察が混雑しています。ご希望の日に診察できなかったり、ご予約の時間からお待たせすることがありますが、ご理解いただきたくお願いいたします。時間にとらわれず、丁寧にご説明する事を心掛けています。
葉山ハートセンターでの診察は比較的余裕があります。葉山ハートセンターでの診察をご希望の方は、このホームページの問い合わせアドレスにメールをお送りください。飯田が直接対応いたします。

<Vol.18>インフォームドコンセント

専門的な内容を専門外の者が理解するには困難が伴います。私にはブラックホールの写真が撮れたことの素晴らしさや、ブラックホールの存在をなぜアインシュタインが予測できたのかまったく理解できません。 診察ではご本人、ご家族の健康や命に関わる事ですので、すべての方にご理解いただけるように説明しなければなりません。必要なことが十分に伝わるように、誤解が入らないように、ご本人が必要としている情報だけではなく、重要なことは残さず伝えるように心がけています。

漏斗胸について、その手術についてご説明するときにもいつもこれらに努めています。ご来院いただいた方には漏斗胸についてのご説明をして、いくつかの手術法についてご説明します。その際にもっとも大切にしているのは「エビデンス」(コラムvol.5参照)や「過去のデータ」(コラムvol.16参照)に忠実であることです。「・・・となる可能性があります」とか「ほとんどありません」などでは頻度が不確かです。手術を行うのなら、その必要性や手術後の状態をきちんとお話しし、自分たちのチームの経験や、合併症の発生率を数字を交えてご説明する必要があります。手術の経験数だけではなく、当該年齢で手術が可能な理由、年齢による合併症の頻度の違い、手術後の成長の影響、左右差や突出部分を合併した場合にどこまで良くなるか、他の方法との比較などもきちんとご提示してご理解いただくことが必要です。

夏休みに手術を予定している方も多い事と思います。主治医にどんどん質問をして納得してから手術を受けてください。

<Vol.17>漏斗胸の身体症状

小児の漏斗胸の方には身体的な症状はほとんどありませんが、年齢とともに症状を有する方が増えます。私達が手術をした16歳以上の229人の方の約60%には症状がありました。最も多いのは胸痛と胸部圧迫感で全体の28%、呼吸困難感が26%、スタミナがない・疲れやすいが15%などです。22%の方は複数の症状を持っているので合計した数字は大きくなります。軽い症状を加えると割合はもっと増えます。このような症状の原因ははっきりとはしません。CTを撮影すると漏斗胸の方では心臓が胸壁に圧迫されて変形していますが、心機能や呼吸機能の値が大きく障害されている事はありません。手術後のCTでは圧迫は軽減して心臓の形も変わりますが、もともと低下していない値は画期的に改善する事はありません。数字などでは表せませんがご本人の症状は手術の後にはほとんどの方で大きく改善します。

私たちが手術をした中に、胸痛のために他院の循環器科医師に狭心症と診断されて長期間内服薬を処方されていた方がお二人いました。このお二人は私たちの漏斗胸手術の後には内服薬を中止しても胸痛はなくなりました(論文「漏斗胸患者の胸部症状ー冠攣縮性狭心症として加療を受けていた2症例を含めて」『心臓』49:1219-1225,2017)。

先日手術後久しぶりに来院された成人の方がいらっしゃいます。手術前より逞しくなった感じがしました。「お仕事はどうですか」と尋ねると、「仕事を変わります」とおっしゃいました。手術前は胸痛があり疲れ易く「体力がない」と感じていたけれど、手術後は症状がなくなったので体を鍛えて自信がついて、小さい頃から憧れていた職業についた、と話してくださいました。手術を受けことで夢がかない人生が変わりました。と言っていただきました。とても喜んでいただきましたが、私もとても嬉しく思いました。この仕事をしていて最も嬉しい瞬間です。(ご本人のご承諾を得て一部改変しています)

しかし、すべての症状が手術によってなくなるわけではありません。肩こり、頭痛、腹部の症状などは漏斗胸とは直接の関連はありません。喘息はアレルギーによって起こります。これらは漏斗胸手術による解決は難しい症状です。

<Vol.16>統計

2018年の私たちの漏斗胸鳩胸の手術にについて報告します。5-48歳、平均16.3歳の59人の方に手術を行いました。漏斗胸54人、鳩胸は5人、男性46人、女性13人でした。問題となる合併症はなく、5-7日、平均5.8日で退院されました。退院時に痛みどめを必要とした方は、17-35歳の8人だけでした。この方たちも退院後は痛い時だけ頓服として内服することによって痛みが改善していました。12歳以下の20人はさらに短い5.3日で退院し、退院時には痛み止めを要するような痛みはありませんでした。私たちの手術では異物を体内に残さず1回の手術で完結します。合併症がきわめて少なく、痛みが続かないのが特徴です。左右差が強い方や鳩胸の方にも十分な矯正が得られ、Nuss法が難しいとされる、12歳以下の小児にも無理なく行うことが可能です。

厚生労働省の統計に不備があることが最近報道されました。データをまとめる方法に誤りがあったり、自分たちに都合が悪い事柄をフェイクニュースとして無視したりすることはあってはなりません。

すべての方に胸の形や体型に違いがあるように、胸郭変形の方にも胸の形や軟骨の硬さ、体格などに個人差があります。それに合わせて合併症を防ぎながら胸の形を整える漏斗胸鳩胸の手術には経験が大切です。そして多くの手術をするだけではなく、それを振り返り改善に努めることが必要だと思っています。そのためには手術の結果を統計学的に正しいデータとしてまとめることが必要です。

これから手術を受けることを考えている方は、主治医に手術の経験、その結果、感染や長期入院、再手術などの合併症の頻度、患者さんの満足度、痛みが続く期間、対象となる年齢とその根拠など疑問をぶつけてみてください。一生に1回の手術です。信頼できる医師を見つけてください。

<Vol.15>医学と科学

胸部外科(心臓血管外科と呼吸器外科)の分野でもっとも権威がある医学雑誌であるJournal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 誌に胸肋挙上術の論文を投稿していくつかの指摘を受けました。

まず手術後の長期的な結果はどうかと言う点です。胸肋挙上術では軟骨の治癒が完了して、皮膚の肥厚性瘢痕の危険がなくなれば受診していただく必要がなくなるので通常は手術後1年で定期的な診察を終了します。その後は異常があった際に受診していただいたり、メールでご連絡いただいたりしています。長期に渡って学校や勤務を休んで受診していいただく必要がないことも胸肋挙上術の利点です。しかし医学研究論文としては数年後まで診察を続けて評価する必要があります。

胸郭変形疾患は患者さんによって胸郭の形だけでなく体形や軟骨の弾力などが異なるので手術の技術的なことは数字では十分に表現できません。しかし科学の世界では客観性や再現性を持たせるために数字で示さなければなりません。アートではなくサイエンスなのです。この様に実際の診察や手術と科学の間には差がありますが、私たちはこの差を埋めて、胸肋挙上術の優位性を科学的に証明したいと思っています。 今年の日本小児外科学会では思春期前にナス法を行っている先生の発表がありました。ナス先生をはじめ欧米のほとんどの医師は思春期前にはNuss法の手術は行わない方が良いと言っています。この時期に手術をすると成長によって金属バーが体に合わなくなったりずれたりすることや、バーを抜いた後の成長によって再陥凹する危険があるからです。千人を超える患者さんに手術を行っている欧米の多くの医師の意見に反して手術を行うには、画期的な手術方法の工夫が必要なはずです。発表された先生にそのことについて尋ねてみましたが、明確なお答えはいただけず、患者さんが希望するから、とのお返事でした。患者さんの希望に答えるのは大切なことですが、その前提は医学的に同等の効果が証明された選択肢がある場合です。国内には小児の漏斗胸手術に独自の工夫をされている先生もいらっしゃいますが思春期前のNuss法は欧米ではほぼ否定されています。

私たちの胸肋挙上術変法は独自の方法です。独善的にならない様に、可能な限り科学的な検証を行いながら術式をさらに良いものにする努力を続けていきます。

<Vol.14>災害

今回は胸壁外科とは関連がない話題です。今年は地震や台風、豪雨などの災害が多く、被害を受けられた方々にはお見舞いを申し上げます。

台風24号では関東も強い風が吹いて、神奈川県の海沿いの地域では停電や塩害を受けました。海沿いでは木の葉が茶色く変色し、窓ガラスなどには塩がついて白くべたべたしています。私たちも災害への対策を強化すべく対策を考え直しています。

先日鹿児島県奄美群島にある喜界島の喜界徳洲会病院に出張いたしました。台風24号では、お年寄りも初めて経験したという強風が吹いて、屋根や壁が飛ばされた家がたくさんありました。(関連する記事はこちら)幸い大きな怪我をした方はいなかったようですが、数日停電が続いた地区もあって生活への影響は大きかったようです。連続して台風が近づいたために、フェリーでの物資輸送が滞り、生鮮食料品の売り場は売り切れが目立っていました。

昨年9月には島始まって以来の大雨でがけ崩れが多発し被害を受けた家や農地がたくさんありましたが、今年もまた、想定を超えた災害だったようです。

過疎の島でお年寄りの一人暮らしも多いのですが、近所の結びつきが強く、力を合わせて復旧を頑張っていました。

今年の大河ドラマでは奄美方言の台詞に字幕が付いて話題になりました。島津藩時代や第二次大戦とその後の占領など辛い歴史がある島々ですが、奄美諸島には自然が残り、人々が温かく、初めて訪れても懐かしく感じるような場所です。サンゴ礁の海はとても綺麗です。大きな川がないので泥が流れ込まないからです。浜には外国語の表記がある大量のペットボトルや漁具が漂着するので、地元のボランティアなどが清掃をしています。

最近は成田と関空からLCCも飛んでいます。観光に訪れたり、黒糖焼酎を試してみたり、ふるさと納税をしたり、「応援をよろしくお願いします!」

<Vol.13>ネット情報

私たちはインターネットの医療情報には不正確なものもあり注意が必要である事をかねてから指摘してきましたが(「よくある質問と答え」参照)、今月から医療法施行規則が改正されて、医療に関する紛らわしい広告が禁止されました。(詳細はこちら)私たちが問題視していた「患者様の感想」などを公開することも禁止されました。

法律改正に先立って昨年暮れにグーグルの医療情報検索のポリシーが改定されました。(関連する記事はこちら)正確な医療情報を掲載したサイトが検索上位に来るようにすることが目的とのことです。この変更ののち、私たちのこのサイトを閲覧いただく回数が飛躍的に増加しました。2017年までは1か月に閲覧いただいた回数は最高1,700回ほどでしたが、2018年5月には3,600回と倍以上に増加いたしました。たくさんの方に読んでいただく責任を果たすべく、医学的に証明された、正確で最新の情報であるエビデンス(コラムvol.5参照)を発信する努力を今後も続けていきます。

<Vol.12>第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS)について(その2)

AATSには飯田が責任者として漏斗胸の手術を行うようになってから昨年夏までの24年間の400件以上の手術について「Twenty Four Years Experience of Open Surgical Repair for Pectus Excavatum」という題で下記の内容の発表をしました。

それ以前の手術方法である、ラヴィッチ法や胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などをもとにして胸肋挙上術変法(SCE)を開発しました。

1998年にNuss先生が全く新しい発想の手術を発表してその術式が一気に広がった時には、Nuss法の合併症が比較的多いことに気が付き、SCEにさらに改良を重ね、現在はSCE変法3,4,5を患者さんの年齢や胸の形に合わせて行っています。異物を用いないので、それがずれたり、成長に伴って体に合わなくなったり、感染したり、痛みが長く続いたりすることがない事が利点です。Nuss法では10%程度にみられる重篤な合併症がSCEでは起きたことがありません。また長期間痛みが続くことや、長期の運動制限もありません。Nuss先生など欧米の先生は思春期前の患者さんには手術を行わない様になりましたが、SCEは5-6歳の患者さんから行う事ができます。手術後の成長に伴う変化は完全には否定できませんが、5-6歳ごろに胸の形が気になりだした患者さんを中学入学頃まで長期間待たせることは良い事とは思えません。またSCEは突出を伴った変形や左右非対称の胸郭も良好に矯正する事ができます。SCEは合併症がとても少なく、患者さんにご満足いただける手術方法であり、患者さんが手術を受ける際にNuss法と対比して選択する手術方法となりうるのではないかと考えています。

発表後の質問は以下のようでした。


Q1: 胸骨下部をとることで問題は起きないか

Q2: 肋軟骨が無くなる程度の切除をしなければ矯正はできないのでは

Q3: 手術後長期の結果について

A1: 胸骨下部は陥凹の最深点であることが多くその切除によって心への圧迫が解除される。また下部肋軟骨の再縫合が容易になり十分な張力が胸骨を引くようになり、その反作用で胸壁も引かれ、より良い矯正が得られる。腹直筋などを修復するので問題は生じない。

A2: 肋骨肋軟骨の間を剥離しないので1本ずつの肋骨ではなく、胸壁全体が胸骨を左右と下方(尾側)に引く強力な力が生ずる。そのため肋軟骨の切除はラヴィッチ法や胸肋挙上術原法などと比べて少なく十分な長さの肋軟骨を残しても矯正が得られる。

A3: 長期間異物を体内の残すようなことはしないので、再縫合した肋軟骨が癒合して治癒が終了すれば定期的な診察や検査は不要である。そのため1年目以降は学校や勤めを休んで外来に来てもらうことはしないが、何年経っても異常があればメールでの相談を受けている。

<Vol.11>第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS)について(その1)

第98回米国胸部外科学(American Association for Thoracic Surgery, AATS) に胸肋挙上術の演題を発表しました。

この学会は1917年に設立された心臓外科、呼吸器外科では世界で最も歴史がある大きな学会で世界中に会員がいます。

日本の学会では10室以上に分かれて、多くの演題が発表されるのが通常ですが、AATSでは、最大でも心臓、大動脈、呼吸器、小児心臓の4会場に分かれるだけで厳選された演題を討論します。

発表時間が8分と長いだけでなく、その後の質疑が10分と発表より長く、興味ある質問が続くうちは予定を超過しても討論時間を延長することがあるのも日本の学会との大きな違いです。

この様な会に選ばれたことは大変名誉であるとともに、とても緊張して臨みました。

全体会が行われる部屋では1,700脚ほどの椅子がありましたが、立ち見が出る事もありました。

留学中の恩師の米国のChitwood教授, ドイツのSchafers教授や教科書や論文で著名な先生方の講演を拝聴しました。

現在の心臓外科手術で最も数が多い冠状動脈バイパス手術を米国で初めて行ったGreen先生が登壇したレジェンドランチョンでは、心臓外科黎明期のご苦労を興味深く伺いました。

会場のカリフォルニア州サンジエゴのコンベンションセンターはとても広く、西には湾とヨットハーバー、東は中心街に面していました。湾には海軍基地があり、現役空母が2隻、博物館になった退役空母が1隻停泊していました。

旧市街中心部にはレストランなどが並ぶ地区がありましたが、食事は一品の量がとても多く、円安のためか物価が高く感じました。メキシコと国境を接し、街じゅうにヤシの木がありますが、5月に入っても最高気温が15度程と思ったよりも寒い日が続きました。町の周囲は砂漠のような乾燥地帯ですが、雨も降り、想像していたのとはかなり異なる気候でした。

発表内容は次回に報告します。

<Vol.10>閲覧回数

胸壁外科のこのホームページを見ていただいた回数が2018年1月は月間1,800回を超えて過去最高になりました。ご覧いただきありがとうございます。

私たちはおそらく国内唯一の胸壁外科を標榜する診療を行うにあたり、漏斗胸の方の症状や、心臓や呼吸の機能に関する研究、私たちが行っていない手術方法も十分に理解して、ご説明や診療ができるように努めています。他の手術法を研究することによって自分たちの手術を改良させることもあります。ホームページの記述に当たっては思い込みや個人の感想のような事柄を極力排除して、理論的に公平に判断、吟味した最新の「エビデンス」(コラムvol.5参照)を公表しています。

たとえば1998年にNuss先生が画期的な漏斗胸手術として金属棒を胸骨の裏側に留置する手術を発表した論文の患者さんの平均年齢は10歳以下でした。しかし、5年以上前からNuss 先生は「12-15歳くらいまで待ってから手術をする。18歳以上は合併症が増える」とおっしゃっています(Ann Cardiothorac Surg 2016;5:493)。このように経験を積むことによって、効果が高く合併症が少ないより良い治療法を再考することは尊敬すべきことです。Nuss先生が開発した手術が普及して、漏斗胸の手術が広く行われるようになり、漏斗胸が改善した方がたくさんいます。しかしNuss先生の当初の論文だけを参考にして、工夫もなく10歳以下の患者さんに対してNuss法を行ったり、Nuss法の問題の一つである疼痛が遷延することを説明しない医師もいるようです。私たちの胸肋挙上術変法を過去の術式と混同して批判する医師もいます。胸郭変形疾患に関して十分な診察や治療の経験を有し、常に論文や学会を通して最新の情報を得ている医師は多くはないと思われます。

患者さんやご家族に広くご説明するためにインターネットは大切な手段です。医師に対して胸肋挙上術を周知し議論するために学界や論文は重要な場所です。今後も胸肋挙上術をさらに進化させてその成果を発表していく努力を続けたいと思います。

米国で開催される呼吸器外科、心臓外科の分野で世界で最も権威のある学会であるAmerican Association for Thoracic Surgeryに胸肋挙上術の演題が採用されました。

<Vol.09>Nuss法漏斗胸手術手技研究会について

この研究会はNuss法手術の普及を目指して発足した会であり、私はNuss法を行っていないので参加したことはありませんでした。漏斗胸手術は胸部外科、小児外科、形成外科などで診察と手術を行っているために国内では一堂に会して漏斗胸を論じる機会がありませんでした。会の代表世話人の植村貞繁教授の広く漏斗胸について論じる会にしたいとの御意向からお誘いをいただき参加することにいたしました。

国内では漏斗胸手術をたくさん行っている施設が少なく、CWIG(コラム6参照)のように1,000人を超える患者さんの手術結果を統計学的に検討した発表はありませんでしたが、胸郭変形の患者さんのより良い治療法を見出すために白熱した議論が行われました。

胸肋挙上術は、左右非対称、思春期以前、成人、陥凹と突出の両方を有する複雑な変形、鳩胸など様々な患者さんの胸郭に対応することが可能で、大きな合併症が起きていないことを400人以上の患者さんの手術結果から発表いたしました。また胸肋挙上術変法は、ラビッチ法、胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などの過去の術式とは手術方法もその対象となる患者さんや結果も大きく異なることを説明しました。Nuss法以外の手術方法は胸肋挙上術だけであり、発表後も多くの先生方からご質問を受けました。

Nuss法は原法では前胸部に傷がなく、Nuss先生が推奨する年齢の患者さんに対して十分な経験を有する医師が行えば良好な形態が得られる画期的な方法です。しかし左右非対称の胸郭の矯正、Nuss先生が推奨する13-17歳以外の年齢に対する手術、早期に運動を開始したい方への手術などでは胸肋挙上術は有効であると考えます。Nuss法では合併症が比較的多いこと、呼吸や体動で動く胸郭をバーで長期間固定すること、疼痛が遷延することなどが問題点として考えられますが、それについて詳細に検討した発表はありませんでした。

私たちはNuss法を行わないのですがこの研究会の世話人にご推挙いただきました。今後も手術手技を改良し、より良い結果が得られるようにお互いの手術の経験を生かし欠点を補えるようしていきたいと思います。

<Vol.08>日本胸部外科学会総会発表について

心臓外科、呼吸器外科などの分野では最も大切な会です。この学会の重要な企画であるサージカルテクニックセッションというビデオを使って手術法などを発表するプログラムに胸肋挙上術の演題が選ばれました。広い部屋で立ち見が出るほど呼吸器外科医が集まった中で動画を使って手術の方法や昨年末まで約400人の手術の結果や、Nuss法では難しいと思われる左右非対称、小児、高齢、心臓手術同時などの患者さんに対する手術結果などを発表いたしました。興味を持ってくださる医師も多かったのですが、年配の医師の中には過去に自分たちが行っていたけれど今は行われなくなったラビッチ法、胸骨翻転術、胸肋挙上術原法などと混同して批判する先生方がいらっしゃいました。私たちが行っている胸肋挙上術変法はこのような過去の術式の反省の上に改良を重ねた手術の方法です。過去の術式やNuss法を研究してより良い結果を求めて工夫を重ねているから患者さんに喜んでいただけるようになったと考えています。消えたしまった過去の術式とは異なる方法です。今後も丁寧にその違いを説明していきます。

<Vol.07>Chest Wall International Group (CWIG 国際胸壁研究会その2)

Nuss法に関して多くの発表がありました。胸郭の形には個人差が大きく、それを矯正するにはどのような術式でも十分な経験を要します。様々な胸郭変形に対して手術方法の工夫がなされています。バーを交差させたりして3本以上留置する方法が発表されましたが、多くのバーを置いた場合に、胸郭の動きを長期間、広範囲に阻害することにならないのかが気になりました。私たちの胸肋挙上術では肋間筋による胸郭の動きを阻害しません。また肋軟骨が引き合うことで作用反作用の法則が生じて左右非対称や陥凹と突出を併せ持った胸郭に対してもよく矯正することができます。

Nuss法では肋骨の間に金属棒を挟むことになるので疼痛が遷延します。疼痛を軽減する方法について討論するセッションもあり、海外では未成年に対しても長期間麻薬を使用しているとの報告がありました。

手術数が多い施設を調べると、頻度は高くはありませんが発表されている以外にも重大な合併症が起きているとの報告もありました。インターネットで公開されている重篤な合併症もあります。(http://www.dailymail.co.uk/health/article-2773333/She-just-wanted-bra-like-friends-paid-life-Teenager-17-dies-surgery-correct-sunken-chest.html)

手術方法以外に看護に関する演題、心機能に関する演題なども発表されました。胸壁によって圧迫されるために運動時に心臓の右側が拡張できないことが漏斗胸の方の運動時の身体症状の原因となっている可能性が示されました。

日本から参加したのは3施設と少なかったので休憩時間などに交流する事ができました。他国からの医師ともお話をする機会があり、歌で聞いたことがある、カナリア諸島から参加した医師からは、島はスペイン領だけどアフリカ西岸にある事をうかがいました。

3日間胸郭変形に関して論じるこの学会は、自分たちが行っていない手術や、生理学や看護など他分野の研究を学ぶことができて、胸郭変形疾患とその手術に関しての理解が深まり実り多いものでした。

帰国は飛行機の遅れで乗り継ぎが出来ず、中国経由で12時間以上遅れてかなり疲れましたが、同行の友人ができたのも旅の楽しみでした。

<Vol.06>Chest Wall International Group (CWIG 国際胸壁研究会その1)

胸壁の疾患についての、おそらく唯一最大の国際的な研究会であるCWIGの第18回総会に参加しました。

200人以上の参加者が100題近い演題について発表、討論しました。論文でお名前を拝見するような世界中の漏斗胸専門家のほとんどが集まっていました。日本から参加した医師は私を含めて3人でした。3日間ずっと胸郭変形疾患についての話題が続き、大変勉強になりました。学会名誉会長の米国のNuss先生はご高齢にもかかわらず最前列で討論に参加していらっしゃいました。会場はイタリア、フィレンツェのヨーロッパ最古の孤児院で、現在は博物館になっている建物でした。6月のイタリアはとても暑く、エアコンがない室内は討論の熱気もあり午後には汗がとまりませんでした。

Nuss法以外の漏斗胸手術の演題を発表したのは私だけでした。二次性徴まで待ってから施行することが推奨されているNuss法に対して、私たちの胸肋挙上術は3歳から中年に至る広い年齢に対して有効な手術法であることを発表しました。最前列のNuss先生が、二次性徴前に肋軟骨を切除することの是非について質問されました。以前広く行われていたRavitch法では切除した肋軟骨を再建しないことがあるので肋軟骨の成長異常を起こすことがあります。しかし胸肋挙上術では肋軟骨の一部を切除しますが各肋軟骨の一部を残して再建します。そのため手術後に肋軟骨や胸郭が成長できなかったことはないとお答えしました。その後で廊下でご質問に対してお礼を言うと「Nice presentation!」と言っていただきました。以前同学会でお話ししたことがある、CWIG前会長のデンマークのPilegaard先生に私の発表に対する感想を伺うと、ご自身が約2,000人に行っているNuss 法のほうがいいのではないか。手術時間が3時間近くかかるのは長すぎる、とのご意見をいただきました。Nuss法では治療が終わるまでに3年かかるので、1回の手術で完結する胸肋挙上術ほうがずっと短いと考えているとお答えしました。

胸郭変形疾患の様に専門とする医師が少ない疾患では、一般の学会での発表は限られているので、このような研究会に参加し、最先端から遅れないことの重要性を再認識しました。Nuss先生を含めて海外の施設では、12歳未満の小児に対してはNuss手術を行わなくなりました。この年齢では合併症や再発が多いからです。また18歳以上では合併症が増えることをナス先生は述べておられます。このことを考慮せず工夫もなくNuss法を行っている施設も残念ながらあります。Nuss法以外のほぼ唯一の漏斗胸手術の選択肢である胸肋挙上術をさらに進化発展させていく使命を感じました。

<Vol.05>学会発表とエビデンス

学会ではまれな病気の患者さんを診察、治療したという1例報告から、治療方法に工夫をしたり新しい治療や手術法を開発した報告、過去の治療結果をまとめた報告、複数の病院での結果を合わせて検討した報告、動物実験のような将来の治療つながる基礎研究など様々な分野の演題が発表されます。

学会に発表するには通常は審査があり、抄録(発表のあらすじ)を応募して一定の基準を満たした演題が発表されます。応募したほぼすべての演題が採用される学会もありますが、厳しく審査され、採択率を公表している学会もあります。私たちの分野の国内の学会では、胸部外科学会、外科学会の総会などは厳しく審査されます。発表の多くはパワーポイントを使用しますが、ビデオ、ポスターなどを使用することもあります。興味深いテーマについて議論する、パネルディスカッションやワークショップなどは上級演題と言われ、他の医師に対する教育や啓蒙の意味が強くなります。

ある方法の効果を証明するには、都合の良いデータや患者さんを選ぶのではなく、同じ方法を試みたすべてのデータに対して、統計学的、医学的な検証をしなければなりません。(個人の感想です)と小さな字で書いてある健康食品の広告などとは異なります。自分の主張に都合がよいデータや論文、記事だけを引用する某国元首のようなことは避けなければなりません。

新しい治療法を試みる場合には、院内の倫理委員会で審査をして、患者さんに十分にご説明をしてご納得いただくなどの、倫理的な指針に基づいていることが必要です。動物実験にも倫理的な基準があります。また発表に際して企業との関係の有無を明らかにする必要があります。

このようにして得られた結果に基づいて論文が書かれ、医学雑誌に投稿され、審査を経て掲載されます。権威のある英文医学雑誌に掲載されるのは、投稿された論文の半数に満たないすぐれた論文です。医学雑誌の信頼度、重要度は、他の論文に引用された回数を表すインパクトファクターという国際的な指標で評価されることがあります。

「ずっとこの方法でうまくいっているのだからこれで良い」というような医師の経験に基づいた医療が行われていた時代もありましたが、現在では信頼できる雑誌に掲載された論文(エビデンス)や、それらをもとに各学会が作成したガイドラインに沿って医療が行われます。これはEBM (evidence based medicine)、根拠に基づく医療と呼ばれます。

ちなみに私たちが行っている漏斗胸に対する胸肋挙上術(Sterno-Costal Elevation)に関する論文は、胸部外科の分野ではインパクトファクターが高いAnnals of Thoracic Surgery(米国胸部外科学会の機関誌)、European Journal of Cardio-Thoracic Surgery(欧州心臓胸部外科学会の機関誌) などに掲載されています。

<Vol.04>胸壁外科コラムについて

各月の月初には新しいコラムを掲載いたします。また、必要に応じて月の途中でも更新いたします。

<Vol.03>第54回日本小児外科学会学術集会報告(その2)

今回は他施設からの発表のご報告です。

Nuss法に関して、手術方法の工夫や留置する金属の材質を変える試みについて発表されました。また8歳未満で手術を行い10歳未満でバーを抜いた症例では、再発率が高いことが発表されました。手術経験が豊富な病院では、手術結果の改善につなげるために、手術方法の工夫や、過去の手術の検討が行われてその内容を他と共有するために活発に学会で発表をします。

バキュームベル(注)をいち早く導入した病院からの発表では、41人の患者さんで1年以上たった時点で体表面から陥凹の程度を測定し、年齢によっては改善していることが報告されました。しかしこの治療法を何人の患者さんに行ったが明らかではありませんでした。何人に行って何人に効果があったが医学的な結果の検証に大切であると考えて、私がそのことを質問すると、100人以上に行ったとのことでした。

他の施設からは、バキュームベルの施行前後でCTを撮影すると、胸骨の陥凹は変わらず、皮膚と胸骨の間の皮下組織が厚くなって体表面からは陥凹が改善したように見えるとの発表がありました。

注 バキュームベル:前胸壁に大きなカップのような器具を当ててその中を陰圧にして陥凹を吸い上げて治そうというヨーロッパで開発された器具。健康保険は適応されず自費(12万円程度)で購入して使用します。

<Vol.02>第54回日本小児外科学会学術集会報告(その1)

小児に対する外科治療を行う医師の学会です。漏斗胸や鳩胸などの胸郭変形疾患は小児期に明らかになることが多く、小児外科学会では活発に討論されます。

今回はテーマを決めて討論する「要望演題」に「漏斗胸の治療戦略」が指定され、8題が選ばれて発表、討論されました。

私たちは演題「10歳以下の小児に対する漏斗胸手術の検討」を発表しました。この発表の背景にあるのは、Nuss先生が2016年の論文でもNuss法(本編参照)による漏斗胸手術は12-15歳ごろまで待ってから行う、と述べていることです。それ以下の年齢では、成長によってバーが体に合わなくなったり、バーを抜いた後の再発が多いためです。また18歳以上のナス法は合併症が増えることも同時に述べられています。海外では1,000人以上に対してNuss法手術を行った経験がある病院がいくつかありますが、その多くは思春期まで待ってから手術するとの報告をしています。私たちの胸肋挙上術は、1993年以降10歳以下の方149人に対して行われました。問題となるような合併症や陥凹の再発、成長への悪影響はなく、ご満足をいただける結果を得ていることを発表しました。手術後は平均5.9日で退院し、退院後に痛みどめを要するような痛みがあった方はなく、3か月以内にすべての患者さんですべての運動が可能になりました。Nuss法と異なり異物を留置することがないので、長期の運動制限や再手術して取り出す心配はありません。変形を気にしながらNuss法が適応される年齢まで待つのは患者さんにとって良い事ではないと考えています。肋軟骨の一部を切除することによって胸が小さくなるのではないかとのご質問いただきましたが、成人も含めた200人以上で、胸肋挙上術前後のCTを計測して、胸の内腔は小さくならないことがわかっていることをお答えしました。

次回は他の先生方の発表について報告いたします。

 

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